1.持続的な村落開発を進めるために

 


本プロジェクトは、PaViDIAアプローチを用いて、農村地域における持続的な農村振興を実現することを目的としています。農村地域では、食糧及び現金収入を農業生産活動から得ているのが殆どで、彼らの主生計手段は農業生産活動です。ですから、 農村地域の持続的な開発は農業の振興なくしては叶わず、農業生産を増やすことにより食糧の確保と収入の向上が図られ、持続的な開発が進むものと考えられます。




 

 

 2. 低農業生産を改善するための持続的農業

 

 
 持続的農業の概念を説明するときに、“低投入”そして“環境保全”がキーワードとして出てきます。これは、近代農業における化学資材多投による弊害から問題解決が取組まれてきているからでしょう。

では、ザンビアにおける「持続的農業」をどのように考えたら良いのでしょうか。当国では、国民の大半が一日1ドル(USD)以下で暮らしており、食糧の安定確保と収入向上による貧困の削減が急務とされています。この貧困の原因は、低い農業生産に起因するものと考えられます。農業省のマウントマクル中央農業試験場では、当国の小農における主要作物の平均収量(Average)、満足できる収量(Acceptable)及び高収量(Good)を次のように示しています。

 

主要作物名

生産量 (kg/ha)

Average

Acceptable

Good

トウモロコシ

1,100

3,500

5,000

落花生

500

1,500

2,000

ミレット

400

1,000

1,500

ヒマワリ

400

1,000

1,500

大豆

400

1,200

2,000

 

これによると、ザンビア人の主食であるトウモロコシの平均収量は小農においては1,100kg/haの低収量に留まっているのが現状であり、満足できる収量3,500kg/haを達成すためには、約3倍の増収を図る必要があります。この低収量を引き起こしている主な要因としては、①土壌肥沃度の低下、②不十分な農業資材(適正な種子、肥料及び農薬)の投入・利用、③不十分な栽培管理技術(栽植密度、施肥及び除草等)、④不安定な天候(旱魃)等が考えられます。

このため、当国小農の農家経営を安定させ持続的な営農を実現するためには、まず、低い農業生産を改善し食糧の安定確保と収入の向上を図ることが不可欠であり、これを可能にするのが持続的農業と考えられます。

本プロジェクトでは、 前プロジェクト(PaViDIAプロジェクト)で定義された、以下の定義こそ、ザンビアにおける「持続的農業」を言い表しているものと結論しました。

 

“Sustainable Agriculture is a package of agricultural practices that meets the present needs of the farm family in terms of food, fuel wood, income, etc. without damaging the resource base thereby compromising the ability of future generation to produce their needs on the same land using the same resource base.”

            (Willem C. Beets, 1990)

 

 繰り返しになりますが、 ザンビアの農村地域の小農の主生計手段は農業であるため、農業生産の向上による農家経営の安定化なくしては、持続的な農村開発の実現は望めません。

それでは、どうしたら低農業生産を引き起こす制限要因と考えられる「低い土壌の肥沃度」や「不十分な農業資材の利用」を改善し、「不安定な天候」による被害の軽減を図ることが出来るのでしょうか。これらの制限要因を緩和するために、我々の考えている持続的農業による解決策を次表に記してみました。

 

低生産の制限要因

低農業生産を引き起こす制限要因を緩和するための方法

 

土壌肥沃度が低い

 

有機物施用、土壌改良資材の投入そして適正栽培技術による土壌肥沃度の改善

   緑肥作物、堆厩肥等の有機物の利用

   石灰や草木灰、根粒菌等の農業資材の利用

   輪作、休閑、耕耘法及び土壌流亡対策等の耕種的な適正技術の実践

市販されている農業資材(化成肥料、農薬等)の利用・投入が少ない

小農において購入の困難な流通資材の代替として、地域において入手又は再生産の可能な資材を活用

   家畜厩肥及び緑肥作物の施用

   飼料木又は肥料木等の有用樹種の利用

   自家農薬・自然農薬の利用

   作物残渣の堆肥又は飼料への利用

 

不安定な気象条件(旱魃)の被害

 

雨期のみに依存したトウモロコシのモノカルチャーの回避

 

   小規模灌漑の利用による乾期における作付け期間の拡大

   小規模畜産、淡水養殖、果樹栽培等による農家経営の複合化

旱魃の影響の軽減

   土壌の改善(保水量、肥沃度)

   適期播種、早期播種(作期の前進)

   補助灌漑の利用

   耐乾性品種及び早生品種の利用

 

 

 

 3. 営農の複合化による農業経営の安定

 


 ザンビアの小農においては、「雨期に主食であるトウモロコシのみを連続して作付する、いわゆるトウモロコシの単一栽培による連作」が多く取組まれています。また、小農の多くは、3~4年に一度は旱魃的な気候で推移する不安定な降雨条件の下での営農を強いられています。この結果、トウモロコシの連作による土壌の疲弊、化学肥料及び農薬等の市販されている資材を利用できないことが、小農の農業生産性の低さを招き、天水のみに依存した栽培様式が、旱魃の影響をより深刻なものとする悪循環に嵌ってしまっているように感じられます。

このような不安定な降雨条件を考慮すると、農家経営の複合化(畜産、園芸、養殖等)と灌漑を用いた作付け時期の拡大により、雨期のみのトウモロコシのモノカルチャーから抜け出し、食糧供給源と農業収入源の多角化を図る必要があると考えられます。(下のイメージ図参照)

   

 

例えば、次のイメージ図のように、畑作(穀物生産)、養殖と小規模畜産の複合経営により、家畜糞尿の有機物としての利用(圃場・養殖池)と作物残渣の飼料等への転用といったリサイクルを作ることが可能となります。さらに、複合経営により可能となる生産物と副産物のリサイクルにより資材経費の削減が図られ持続的な営農が実現すると思われます。

     

 

 

 

 4. 持続的な営農モデル“Model of Sustainable Farming System

 


 
展示内容については、前プロジェクト(PaViDIAプロジェクト)では、持続的な営農を実現するため、換金性の高いと考えられる灌漑を用いた乾期の生食用トウモロコシ栽培、農家経営の複合化を目指した小規模畜産と淡水養殖を実践するようデザインしました。(なお、農家一戸当りの投入資材の経費は約100ドル、労働と木材や屋根葺きようの草等の建設資材は農家もち)

チョングェ郡の10戸の農家は、①重力灌漑による乾期の生食用トウモロコシ栽培(個別)、②共同改良山羊飼育(高床式の改良畜舎の設置、優良種導入による山羊種の改良)と③共同淡水養殖(優良魚種の導入、山羊厩肥の利用)に取り組んできました。

また北部州においては、乾期のトウモロコシ栽培(面積625㎡)からは、農家一戸当り平均でムポロコソ郡では133ドル、ルイング郡では93ドルの現金収入を上げるとともに、共同による山羊畜舎建設と養殖池設置を済ませ、 その後の管理作業を継続しています。

 


 

その結果を受けて、持続的な営農(Sustainable Farming Systems)は、前述したとおり、農家経営の複合化による「農業生産の多角化」と「生産物及び副産物のリサイクル」により農業生産の増大と投入経費の削減を促し、農業収入の向上を実現するものと考えています。

なお、私たちの推奨する持続的な営農(Sustainable Farming Systems)を次のように定義しています。

 

“Sustainable Farming System is a combination of practices achieving agricultural productivity in perpetuity maintaining the natural resource base by application of conservation principles.”

     PaViDIA Sustainable Agriculture Team

 

 

 

 

 5. 成果のマニュアル化

 

 

現在、これらの成果はマニュアル化され、PaViDIAアプローチの中に取り入れられ、持続的な農村開発の技術的支柱としての役割を担っています。今後、マニュアルの内容を現地の普及員をつうじて、PaViDIAアプローチを実施しながら、実証を繰り返して、より効果的な農業技術として、確立を目指していきます。

 

現在の持続的農業のマニュアルについては、以下をご参照ください。

 

持続的農業マニュアル(PaViDIAアプローチ・マニュアル、第三巻)

 

 

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