1. PaViDIA(パビィディア)アプローチとは
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本プロジェクトでは、PaViDIAアプローチという参加型農村開発手法を活用しています。 PaViDIAはParticipatory Village Development in Isolated Areasの略です。その言葉が表すように、「孤立地域(Isolated Areas)」に暮らす人々の住む「村(village)」を対象に、その「開発(Development)」を村民及び関係者の「参加(Participatory)」で進めるという概念(考え方)です。 具体的な手法として、「マイクロ・プロジェクト」という村落における小規模事業を、農業・協同組合省(以下、農業省)の普及員の指導の下に村民全員の参加により実施します。その経験から村の課題解決能力(Capacity)を強化し、最終的には自立的な村(及び村民)を育成することを目的としています。
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PaViDIAアプローチとは、PaViDIAという概念を「マイクロ・プロジェクト」という具体的なツールを通して実施するための具体的な方法(手法)や組織体制について纏めたものです。
2. PaViDIAアプローチの進めかた
PaViDIAアプローチを一連のプロセスは以下の通りです。
以下、各活動について説明します。
0) 戦略フェーズ
(ア) 戦略づくり
PaViDIA Operation Room (略してPOR)の本部が、農業省の農業局の下にあり、そこが基本的な戦略を策定します。実際には戦略の骨子はPORで既に策定されているため、通常はこの骨子にそって、後に述べる資金の集まり具合や各州の能力などを全体的に判断して、戦略をより現実的なものに修正します。現在は、全国で5州(ルサカ州、北部州、ルアプラ州、北西部州及び西部州)の基本戦略があります。
(イ) 資金づくり
マイクロ・プロジェクトを実施するためには資金が必要です。基準としては、一農家あたり100米ドル、一村100農家だとすると、一村あたり10,000米ドル(約100万円)の資金が必要です。加えて、普及員の研修や運営費なども必要となります。その資金を得るために、POR本部が、農業省の予算の中に取り込む活動をしたり、各ドナーにPaViDIAアプローチを売り込んだりします。最低でも一郡で5以上、通常は10-20のマイクロ・プロジェクトが実施できるような資金を獲得します。よって、一村あたりの投資額を調整することもあります。 |
(ウ) 対象州及び対象郡の選択
対象となる州及び郡を選択します。その際には各州や各郡の各農業省事務所の能力(人材、車両、通信機器、オフィス)について調査を行い、また資金元がドナーである場合は、ドナーの要望も参考にしながら、また本省の意向も尊重しながら、対象州5州の中から、対象となる州及び郡を選択します。そのために現地の踏査をする場合もあります。
1) 計画フェーズ
(ア) 対象郡事務所職員・普及員の研修
対象となった農業省の郡事務所の普及員とその管理者である職員(DACOやSAOと呼ばれる)を対象に、PaViDIAアプローチの研修を行います。通常は「スタートアップ研修」と呼ばれるいわゆる概念及び計画手法を中心とした7日間程度の研修を実施します。研修はプロジェクトが養成した「PaViDIA認定トレーナー」によって実施されます。認定トレーナーは、農業省の職員(本省または州職員)です。研修はマニュアルを理解するための座学と演習、そしてマイクロ・プロジェクトの現地訪問を組み合わせて実施されます。研修を実施した段階で、郡事務所内に、郡レベルのPOR(略して郡POR)が、郡事務所職員を中心に設置されます。さらに、マイクロ・プロジェクトを実施する直前にフォローアップ研修を実施します。また必用に応じて追加的な研修を行うこともあります。 |
(イ) 対象村の選択
PaViDIAアプローチが対象とするのは「村」です。「村」は行政組織ではなく、伝統的な酋長制に基づく組織ですが、孤立地域においては、もっとも持続的かつ具体的な組織です。研修を受けた普及員が自分の普及対象範囲(キャンプと呼ばれる)の中から、PaViDIAアプローチを実施する対象の村を選択します。村の選択は、まず3つの候補となる村を選定し、20以上にも上る調査項目からなる調査票をつかって、普及員によって選定が行われます。最終的な対象村の決定は、郡PORが行います。
(ウ) 村ワークショップの実施
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村が選定されると村において、村ワークショップ(村落計画策定ワークショップ)が実施されます。村ワークショップは、村の農家の代表者70%以上が参加することになっており、またその中で30%以上は女性である必要があります。村ワークショップは、普及員がファシリテーターとして、進行役を務めます。村に何が足りないかという問題分析よりも、村の資源は何か、どうしたら活用できるかという資源活用の考え方でワークショップが勧められます。最終的にマイクロ・プロジェクトの内容(通常は複数のサブプロジェクトから構成される)について、合意をとります。ワークショップの中で、村でマイクロ・プロジェクトを具体的に管理するためのプロジェクト委員会のメンバーの仮選出も行われます。 |
(エ) プロポーザル作成・選定
普及員と村の代表(プロジェクト委員会)が共同して、マイクロ・プロジェクトのプロポーザルを作成します。プロポーザルは標準化されたフォームがあり、そのフォームにしたがって、プロジェクト内容を記述します。プロポーザルは、まず郡PORに提出されます。この時点で郡事務所は必要な修正を行う場合もあります。郡PORは複数のプロポーザルをまとめて、州POR(州の農業省事務所)に設置されたPOR本部に送付されます。送付されたプロポーザルについては、POR本部が中心となってコメントや修正指導を行います。また必要であればPOR本部や州PORが現地踏査をする場合もあります。
2) 実施フェーズ
(ア) 村の準備(銀行口座・組織化等)
プロポーザルを提出した村は、村としてのマイクロ・プロジェクトの実施の準備を開始します。事業実施の資金は村に直接送金されるため、送金先としての銀行口座を開設します。この口座開設の際に必要な村としての定款づくりや法人としての登録も必要となってきます。また仮決めしたプロジェクト委員会のメンバーを確定します。また、マイクロ・プロジェクトは通常複数のサブプロジェクトから構成されるため、各サブプロジェクトの管理をするサブプロジェクト委員会も選定されます。村の村長は委員会のメンバーにはならずに、村の代表として、外からプロジェクトの実施を見守り、必要であれば支援を行います。
(イ) 事業の実施
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村として資金の必要のない作業、例えばレンガづくりや整地は、資金投入の前の準備として先に実施します。資金が振り込まれると、普及員とプロジェクト委員会とともに資材を買出し、プロジェクトの活動計画に従って、事業を実施します。基本的には、村人の全員が参加するが、具体的にはサブプロジェクト委員会のメンバーを中心に各サブプロジェクトの実施が行われ、全体的な調整はプロジェクト委員会が行います。普及員も進捗が遅れないように、村を訪れて、必要な支援を行います。この必要な支援の中に、マイクロ・プロジェクトを実施するのに必要な研修(家畜飼育や財務管理に関するものが中心)を 行います。この事業実施の進捗は標準化されたモニタリングシートに普及員が記入し、郡PORに提出します。 |
(ウ) 事業継続・活用のための支援(モニタリング)
事業の基礎的なインフラが揃った段階で、村としては活動が停滞することがあります。例えば農業用倉庫兼ショップが作られた、またはヤギ小屋が作られた段階で、村人が安心してしまい、倉庫/ショップが活用されない、またはヤギの管理がずさんで死んでしまうということがあります。また普及員として解決できない問題、例えば公金の横領などの問題も出てきます。このために事業のインフラが揃った後も、四半期ごとに標準化されたモニタリングシートに活用の状況を記入します。記入されたモニタリングシートは、郡PORによってコンピューターのデータベースに入力され、貯蓄額により村のランキングか作成されます。郡PORにより普及員と村の代表を集めて、四半期ごとの会議がおこなわれ、その結果を話し合います。その後、村に郡PORが赴き、普及員とともにマイクロ・プロジェクトの課題を話し合い、改善のための活動計画を作成します。これを四半期ごとに繰り返します。 |
3) 展開フェーズ
(ア) 参加型評価
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四半期モニタリングは基本的に普及員とプロジェクト委員会によるものですが、プロジェクト委員会以外の村人の意見を聞くために、プロジェクトが実施されてから数年後に、村人による参加型評価を実施します。文字の読めない村人も気軽に参加できるようにするため、投票方式にして、メイズや豆などの地元の資源を活用したものにします。評価の項目は、マイクロ・プロジェクトで村民の生活が向上したか、そして特にサブプロジェクトの中で貢献度が高かったものは何かという視点で評価します。評価の中で、村民からの改善の要求を取り入れます。一方で、村の評価に参加もできないような最貧困レベルの農民については、プロジェクト委員会と普及員が訪問調査し、彼らの意見を聞き取り、最貧困レベルの人々にも裨益するような改善につなげます。 |
(イ) 再投資
マイクロ・プロジェクトは収入創出活動が中心であり、結果、各サブプロジェクトからの利益が、村に貯蓄されます。貯蓄された資金は、他のサブプロジェクトの運営費や維持管理費として利用されるだけでなく、新しいサブプロジェクトに再投資されます。この再投資を繰り返すことによって、マイクロ・プロジェクトが自立的に発展します。
(ウ) 通常普及業務への移行
マイクロ・プロジェクトの実施中は普及員にとっても通常よりも頻繁に村に通わなくてはならず、追加的な業務となります。マイクロ・プロジェクトの資金の再投資が村で行われ始めた段階で、普及員は村の自立性を尊重し、段階的に村への訪問頻度及び介入の度合いを下げます。最終的には通常の普及員の業務の範囲内での支援にとどめ、村の自立的な発展を促す長期的な支援をします。
3. PaViDIAアプローチの体制
PaViDIAアプローチを実施・管理するのはザンビア農業省(正確には農業・協同組合省: Ministry of Agriculture and Cooperatives)で、主幹局は農業局(Department of Agriculture)です。
農業局は、全国に1500名程度の普及員を有しており、その普及員が現場においてPaViDIAアプローチを村民に指導し支援します。
PaViDIAアプローチを一貫的に管理するために、農業局内にPORという半永久的な組織をつくり、州レベル及び郡レベルにそれぞれ州レベルPORと郡レベルのPORを組織化しています。
概略図は以下の通りです。
図 PaViDIAアプローチの実施体制の概略図
1) POR本部の役割
POR本部は農業局の下に組織され、農業局の職員がフルタイムで1名、農業局及びそれ以外の局からの職員がパートタイムベース(必要ベース)で数名配置されています。一方で、農業局以外の畜産局・水産局といった他局との連携を推進するために、政策・計画局とは連絡をしています。(ちなみにJICAの技術協力プロジェクトであるPaViDIAプロジェクトのディレクターは政策・計画局の局長であり、マネージャーが農業局の局長です。)
POR本部の主な役割はPaViDIAアプローチの実施の総括を行うことです。PaViDIA全国展開戦略の策定やその資金づくり、及びその実施を司ります。アプローチ及びマニュアルの改訂、研修カリキュラムの作成・修正、研修講師の育成といったアプローチの品質管理も行います。またマイクロ・プロジェクトのプロポーザルが提出された際には、州PORとともに、プロポーザルの審査や修正の指導、また現地踏査や現地での調整の指導を行います。
2) 州PORの役割
州PORは、農業省の普及システムの州レベルトップであるPAO(主席農業官)がマネージャーとして、一方で農業省の政策計画局ラインの州レベルのトップであるPACO(州農業調整官)がディレクターとして配置され構成されています。PAOは農業普及システムの州のトップとして、郡レベルの普及関係の職員に対する指導を行う立場にあります。またPACOは、普及システムに入らない、畜産や水産またはインフラといった、農業省の他局にかかわることについての調整を行っています。北部州のようなPaViDIAアプローチ実施の対象郡が複数にある場合には、州PORは、POR本部の役割(例えばプロポーザルの州としての取りまとめや各郡への指導や訪問調査)を担います。
各州にはPaViDIAプロジェクトが育成した3名の認定トレーナーが配置されています。多くは州都に近い郡事務所の職員である場合が多い。州内の郡職員や普及員を対象に研修を行う際には、この各州の認定トレーナーが、研修を行います。
3) 郡PORの役割
郡PORは、普及システムの郡レベルトップであるSAO(上級農業官)がマネージャーとして、一方で州と同様に政策計画局ラインの郡レベルのトップであるDACO(郡農業調整官)がディレクターとして配置され構成されています。SAOは、普及員を束ねるトップとして、各普及員への指導を行う立場にあります。また、DACOは、普及システムに直接入らない作物、畜産、水産、土壌、普及手法、といったSMS(Subject Matter Specialist: 専門技術員)と普及システムとの調整を行い、普及員だけでは対処できないマイクロ・プロジェクトの課題に対して支援を行います。この他、プロポーザルの郡レベルでの取りまとめや普及を通じた村への連絡、継続のためのモニタリングなど、村への介入を普及員とともに行います。
この二名(DACOとSAO)に加えて、郡事務所職員及び普及員の中から、PaViDIAアプローチに対して理解が深い職員を選んでLead Facilitatorという役割を与え、実情として時間がPaViDIAのために十分に割けないSAOやDACOに成り代わって、実際の調整や普及員への支援を行っています。
4) 普及員の役割
普及員は、一つの郡に平均3-5あるブロック、そして一つのブロックに3-5あるキャンプのそれぞれのレベルに配置されることになっています。しかし、実際に配置されているのはその5-7割程度です。ブロックレベルの普及員は、キャンプレベルの普及員の普及活動を統括し支援する立場にあります。場合によってキャンプレベルの普及員では、マイクロ・プロジェクトが回りきらない場合は、直接、村の指導をしたりします。キャンプレベルの普及員は、農業省の普及システムの最前線(末端)の職員で、PaViDIAアプローチの実施において一番重要な役割を担います。具体的には、対象村の選択、村での説明、ワークショップの進行、プロポーザルの作成、実施時の指導や支援、関係者との村レベルでの連絡調整などを行う立場にあります。 |
4. PaViDIAアプローチの特徴
世界に存在する村落開発のアプローチ(手法)は多種多様で、また部分的に似通っているところもありますが、PaViDIAアプローチの特徴を挙げると以下のようにいえるでしょう。
特徴 |
説 明 |
1. 村をターゲット |
「村」は伝統的な社会単位の一つです。特定の目的のために期限付きで組織される他の組織に比べ、持続性があり、活動は多岐にわたり、村民全員が構成員になっているため、村落開発の対象として有効です。この既存組織を強化し、自立発展的な開発を支援します。 |
2. マイクロ・プロジェクトを通じた実践的な能力向上 |
実践的な能力を身に着けるには、研修よりも現実の経験が必要です。農民は、マイクロ・プロジェクトの計画からすべてのプロセスに参加し、開発のための能力を身に着け、将来は自立ができるように支援します。 |
3. 資金の直接投資 |
村には資材ではなく資金が直接提供されます。このことで資金を使って資材を購入するということを学び、また財務管理についても学び、さらにオーナーシップ(当事者意識)を育成します。 |
4. 地域資源を活用した開発プロジェクト |
「発展」は内部的なプロセス。問題探しではなく、農民が、自らの環境に存在する資源を発見・活用することを推奨します。 適正かつ持続的な農業技術を重視します。 |
5. 農業と収入創出活動を中心とした事業 |
農村の経済活動基盤となる「農業」と「収入創出活動」を事業の中心とし、持続性を高め自立発展的な事業の育成を目指します。特に農業については、既存の技術だけでなく、新しい農法(持続的農業)にもチャレンジしてもらい、質の高い農業事業を目指します。 |
6. 政府の既存の普及システムの活用と強化 |
政府の農業普及員が、村の開発の促進者。国-州-郡レベルの普及システムのスタッフも組織的に活用し、この過程を通じて政府機能も強化することで、さらに長期的な持続性を担保します。 |
7. アフターケアの重視(モニタリングによる村育て) |
自立的な村を「育てる」には、長期的かつ丁寧な支援が必要。そのため、プロジェクト実施後も、定期的なモニタリングとコンサルテーション活動を継続することで、農民の持続的な成長を支援します。 |
上記からPaViDIAアプローチの利点とは・・・・、
1) 速効性
理念のみにとどまらず、資金を村に直接投入し、具体的な活動をすぐに起こすことができるため、開発の現場に速効性がある支援ができる。
2) 効率性
一農家あたり100ドルの投資でできる。2002年から2008年まですべての投入額(JICA技術協力の専門家の人件費をも含む)を入れても6億円で、一方の直接裨益住民の数は6万人であり、住民一人当たりで100ドルの投入で実施ができており、効率性が高い。
3) 持続性・自立発展性
農業省の普及システムを活用することで、日本人が引き上げた後でも、持続的な村の支援が可能。また村の中で再投資が繰り返されることで、村としても自立的発展する仕組みになっている。
5. PaViDIAアプローチの成果、成功ケース及び失敗ケース
1) 成果
マイクロ・プロジェクトによる村の開発の成否を客観的に判断するのは困難ですが、一つの指標として、マイクロ・プロジェクトから得た利益の現在の貯蓄額を使うことができます。マイクロ・プロジェクトは建物を立て、事業を運営するだけではなく、そこから利益を上げて、また部分的に貯蓄できるということが必用不可欠です。そのような能力は村としてははじめての経験であるため、貯蓄額を見ることで、大体の成否を計ることができます。
一例として、同じ条件でマイクロ・プロジェクトを始めた31の村(チョングェ郡)での貯蓄額を多いほうから少ないほうに並べたのが下の図です。
図 マイクロ・プロジェクトの各村の貯蓄額(チョングェ2008年6月)
開始年は2004年2005年2006年ですが、みて明らかなように、ばらつきがあります。一つの目安として、貯蓄額が1000ドル以上に達しているところは、自立的に次の事業に向けて走り出す傾向にあります。全体な割合として、かなり成功している村が1割、それなりのところが3割、一進一退のところが4割、残り2割はどうしてもうまくいかない、というのが、専門家及び現地普及員の実感です。実際に同じ条件でも成功した村と成功しなかった村があります。これは、村にある諸条件(リーダーの資質、村人の参加度、村内の自然条件)や外部的な条件(マーケットのあるなし、天候不順)などによって左右されます。
2) 成功ケース
ザンビアの都市ルサカから車で1時間ほどの距離にあるカリマンセンガ村は、2004年からPaViDIAマイクロ・プロジェクトを実施しました。このマイクロ・プロジェクトの実施によって、村民の生活は劇的に改善しました。
マイクロ・プロジェクトの一つとして、井戸を5つ、村民が協力して設置しました。ルサカから1時間といっても、このカリマンセンガ村は他の村と同様に水道施設も無く、電気もガスも来ていません。特に飲料水の確保は村民にとって最大の課題です。井戸が設置されるまでは1時間ほど離れた川に徒歩でいき、川の水を運んでくることが必要であす。川の水といっても、乾季には量が減り、雨季には濁り、決して飲料水としては質の高いものではありません。また、水を汲むことは、女性の仕事であり、育児や家事に追われる女性の労働をさらに過酷なものにするものです。 このような環境で、5つの井戸を村民の発意と協力により設置しました。この井戸の結果、それまで質量ともに不安定な川の水の利用から開放され、村民の健康は改善されたという声が村人から寄せられています。また、女性の労働からみても、水汲みのポイントが複数できることにより、村民特に女性の労働環境が改善され、女性から感謝の声が絶えません。
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このカリマンセンガ村は農業倉庫とその倉庫に併設するキオスクを設置しました。倉庫は、国がとうもろこし(メイズ)の買い取りを行う集積ポイントとして活用され、ひいては村人の農業生産を促進する役割を担っています。また、倉庫という空間は、村民が集会を開いたり、NGOや政府機関が様々な研修を行ったりする場所しても活用されており、それはさながら村における「公民館」のような役割を担っています。村づくりをするためには、このような「場」の設置が大変重要です。 |
キオスクについては、社会的な面と経済的な面があります。社会的な面から言えば、以前は、石鹸を一つ、食用油一本を買いに行くにも、遠く離れた都市まで出かけることが必要で、村民特に女性にとっては、それも大変な労働(または時間の浪費)で す。村民への経済的な負担からいっても、このようなキオスクが設置されることにより、節約ができることになります。さらに、このキオスクは、村人や村外からも客が毎日来訪しており、その月間の売り上げは1-2 million クワチャ(約3万円から6万円)であり、それは平均的農家年間収入にも匹敵するほどの売り上げです。このキオスクの売り上げは、村の収益事業として、商品の買い入れや、新しい事業への再投資に活用されます。再投資を繰り返すことで、プロジェクトの自立発展性を確保してます。
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この再投資の一つの例が、女性グループへの低利融資です。村人にとっては、なにか事業を始めたいとしても、先立つ投資資金がありません。市中銀行は村民が借りられるような仕組みになっておらず、民間の高利貸しも村には訪れることはありません。そのような状態で、カリマンセンガ村では、女性グループを組織し、マイクロ・プロジェクトの資金を利用し、村から融資をしています。その融資の結果、20人の女性が融資を受けています。融資の使い道としては、小売業をしたり、種や肥料を買ったりします。返済率は50%から70%ぐらいであり、改善が必要ですが、村の事業として返済はかならず行われます。 またもう一つの再投資の例としては、村で新しい農地を整地して、メイズの栽培をしました。この収益は村に還元され、また再投資されました。 |
ちなみに、このような新しい農地の開拓や村を上げての事業には、土地の利用権を牛耳る村長の協力が不可欠です。マイクロ・プロジェクトでは、村長は直接的な事業の運営は携わらずに、その事業運営をつかさどるプロジェクトコミッティーの任命権をもっています。(日本の政治における政府と天皇との関係に近い。) 村長を取り込むことによって、土地の問題やまたセキュリティー上の問題などが比較的スムーズに解決できます。
この村のマイクロ・プロジェクトの一つとして、牛による牛耕があります。ザンビアでは、牛をつかって畑を耕す牛耕がかつては大変に盛んでしました。しかし、旱魃や政府の失策による農業生産の不振や病気の蔓延により牛自体が減少して、牛耕自体が減少しました。マイクロ・プロジェクトでは、牛を6頭購入して、村人が協働して飼育しています。そして、雨季が近づくと、牛耕用の牛として、村民に貸し出します。この貸し出しによって、農地が拡大し、農業生産も増加したという声が村民から良く聞かれます。また、牛耕だけでなく、リヤカーをつけることによって、物流用の交通手段として、また病人の搬送用としても活用されている例がありました。この貸出料は、村の売り上げとして貯蓄されて、本事業のメンテナンスや再投資に向かう。さらに牛自体の数もいまは9頭に増加しており、拡大してきています。
養鶏もマイクロ・プロジェクトの一つです。養鶏といっても、この村の場合は、「Pass On System」という制度を導入しています。同制度は、鶏をオス・メスのつがいで貰い受けた農家は、その数を倍にして村に返すという制度です。この結果、金銭的には増加はしていないが、村の約半数(60農家)が実質的に資産を増やしたといえます。
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さらに、ヤギの飼育も再投資として実施されています。このヤギの飼育もPass Onの制度で実施しています。ヤギの場合は急激には数は増えないため、まずはヤギの飼育になれた農家に飼育を一手にまかせて、配布先として特に村民の中でも貧しい農家に先に配っているようです。このような社会的な配慮をすることも村民の話し合いの中で決まってきており、村としての一体感と責任感が醸成されているといえましょう。 |
この村はNHKの情報番組にも紹介され、その出演料を利用して、ソーラーパワーによるテレビを導入しました。テレビは、村をあげてのサッカー観戦など、村人が村の生活をより楽しめるように、また明るい将来を見出す効果があります。テレビをみんなでみることで、村のコミュニケーションも広がりました。
またソーラーパワーを利用したバリカンによる青空床屋も開始されており、村人が毎日訪れており、繁盛しているようです。 このような成功を収めたのには、このプロジェクトコミッティーの委員長であるJailos氏の影響が強いです。またJailos氏を支える村長(Kalimansenga氏)も重要な役割を担っています。彼らとそれを取り巻くコミッティーメンバーのリーダーシップが一番の成功の要因と考えられます。このような将来のリーダーを育成してきていることこそ、このPaViDIAマイクロ・プロジェクトのインパクトといえましょう。 |
3) 失敗ケース
カンチャンチャ村は2004年にマイクロ・プロジェクトを開始しました。
この村が目指したのは村民のためのクリニックでした。カンチャンチャ村も他の村と同様に近くにクリニックがなく、村民は病気になると遠く離れた都市部までいく必要があり、そこに行き着くまでに病状が悪化し死亡するというケースもまれではありません。このような状態から、クリニックを立てることにしました。クリニックの建物は、壁やドアという基本的な部分は完成し、その結果、村人は普及員を通じて、保健省に医者(または看護婦)を派遣できないか相談しました。しかし、クリニックの建物だけでは医者を送ることはできず、そのスタッフの住居や共同トイレを立てることが必要ということがわかりました。 |
スタッフの住居や共同トイレを途中まで立てたが、その中で保健省自体に予算がなく、スタッフが本当に来るのかという疑念が村民の中にひろがり、また後述する村民と普及員との関係の悪化により、すべてがストップしました。いまはその残骸が残っているのみです。
このプロジェクトでは、ヤギを飼育するという計画がありました。その計画にしたがい、普及員がヤギは23頭購入するということで資金をもらいましたが、村民によると実際には15頭ぐらいしか購入されませんでした。村民は、普及員がお金をごまかしたという疑念を抱いており、さらに村長も同様な疑念を抱いていました。普及員は、お金を十分にもらっておらず、また移動のための費用が思ったよりかかったことから、十分な数を購入できなかったと説明しています。また普及員としては、村長が村民にそのようなうわさを流しているという話をしており、村長と普及員との関係は悪化しました。また一部の村民は村長もお金をごまかしているという疑念を抱いており、その結果、プロジェクトへの参加が低下するようなりました。 |
ひまわりの種を栽培して、その種を絞り油を作るという活動もありましたが、同上の理由と、また技術的な理由もあり、ひまわりの栽培は失敗し、油絞り機も活用されないままになっています。
また種と肥料のローンも借りたにもかかわらず、これもまたプロジェクト自体への信頼が失われたため、皆が返さずに、制度的に破綻しました。このもう一つの理由として、あるドナーが同村において、食糧支援(食糧のばら撒き)をしており、そのばら撒きプロジェクトと、本マイクロ・プロジェクトとの差が理解されなかったという外的な影響もあることが指摘されます。
この状態を打開するために、普及員の上司にあたる郡レベルのスタッフが日本人専門家とともに直接的なカウンセリング活動を行い、普及員と村民と村長との間の関係を修復しつつ、またマイクロ・プロジェクトの本来の目的についても理解してもらいました。そのプロセスは1年以上も続き、少しずつではありましたが、関係が修復されました。その結果、種のローンも回収され、使われていなかったクリニックの建物も、キオスクとして活用されています。クリニックはできませんでしたが、キオスクに傷薬や救急用薬品を置くことにより、少なくとも絶望的な状態からは脱したといえましょう。 以上、村を上げてのマイクロ・プロジェクトを実施する際には、人間的な関係作りが重要であり、それがうまくいかないとプロジェクトのみならず村としての機能も破綻するということが示された事例です。 |
6. PaViDIAアプローチの発展過程(PASViDからの発展)
1) PaViDIAアプローチの源流
PaViDIAプロジェクトでは、PASViDを村落開発手法として利用してきました。PASViDは、Participatory Approach to Sustainable Village Developmentの略であり、アジアの村落開発手法であるCARD(CIRDAP Approach to Rural Development)という手法をもとにザンビアで改良された手法です。その基本はマイクロ・プロジェクトと呼ばれる小規模プロジェクトを村民が普及員とともに計画・実施しながら、村の開発をすすめ、さらに村としての自立を促進するものです。この基本的な考え方・やり方はPaViDIAアプローチと同じです。
パイロットマイクロプロジェクトも含めると、PASViDはPaViDIAプロジェクトの始まる以前から、チョングェ郡・ルアングァ郡の村々で実践され、一定の成果を出しています。一方で、プロジェクトの後期で強化されたモニタリングの結果から、さまざまな課題が見出されてきた。これらの課題に対処するために、PaViDIAプロジェクトメンバーにより、改良が加えられ、当初のPASViDから比べると飛躍がみられます。
本節は、その改良について述べたものです。PASViDとの対比について述べますが、新しい手法については、「PaViDIAアプローチの村落開発手法」と呼ぶべきですが、長くなるので「PaViDIAアプローチ」と呼ぶことにします。
2) PASViDからPaViDIAアプローチへの変更点
(ア) 問題解決から機会発見型へ
PASViDではPCMの手法をベースとしているため、問題解決を重視しています。これも開発のひとつの考え方ですが、ザンビアの村落で、問題を問題系図のみで解決しようとすると、それは足りないものを追加するということになり、過大な投資が必要です。そもそもPCMの計画手法は開発時から15年以上もたっており、当時の援助側の外部投資を前提にした援助に適用される手法です。一方で、ザンビアの農村ではまだまだ十分に活かされてないリソース(既存資源)が多くあり、それをどう活かしていくかという視点が重要です。最近の援助の動向も、足りないものを追加するという問題解決型ではなく、生活改善や一品一村運動にみられるように機会発見型に移行しつつあります。
このような点からPaViDIAアプローチでは、リソース探しをより重視しています。まずは、自分達がどれだけリソースに囲まれているかを知り、それをどう活かすのかということを考えてもらう。そのことで、より自立発展的な開発を目指しています。その結果、以下のように計画手法が改定されました。
計画手法のステップの比較
PASViD |
PaViDIAアプローチ |
1. Mapping 2. Wealth Ranking 3. Problem analysis 4. Project alternatives identification 5. Project Selection 6. Project Planning (PDM) |
1. Village Vision 2. Resource Identification 3. Resource Mapping 4. Solution Identification 5. Project Selection 6. Project Planning (MPP) |
詳しくはマニュアルを参照のこと。
(イ) 村落アプローチから村落-グループアプローチへ
PASViDでは村としての問題を解決するため、村という主体に重きが置かれており、IGAなども資金は村の資金として動いています。課題として、製粉機やショップなどが大きな収益をあげても、それが村民ひとりひとりの収益にはほとんどつながっていません。そのために、村民の間に不平不満やコミッティーに対する不信感がうまれ、対立を起こす原因にもなった事例があります。一方で個々人へのインセンティブとなると、クレジット(小規模融資)がありますが、これも一度借りると返さないというザンビアの文化では、持続していきません。
PaViDIAアプローチでは、リソースの活用を中心にIGAができるために、個々人に直結するようなIGA(乾期メイズ栽培、漁業など) が出される傾向にあります。それを個々人ではなく、グループ単位で実施することになっています。基本的には村全体としてのマイクロ・プロジェクトですが、それを構成するのはサブ・プロジェクトです。村と個人の接点として、サブ・プロジェクトを管轄するグループを構成し、グループが個々人への便益と村全体への便益をつなぐ接点として機能することを目指しています。
(ウ) モニタリング活動の重視
多くの村民や普及員の中に、マイクロ・プロジェクトは、建物がたったら終わりという間違ったイメージをもつひともいます。せっかく製粉機が回りだしても、その収益の使い方をよく考えずに、村民の間で分配したり、葬式の費用に当てて終わってしまったりという事例も散見されます。
PASViDではほとんど語られていないモニタリング活動について、PaViDIAアプローチは重視し、大幅に増強しています。プロジェクトのフェーズを「計画」「実施」「活用」「評価」「展開」というように、目的別にわけ、それぞれのフェーズにおいて、普及員として村に対してどのようなモニタリング活動をするべきか、具体的にマニュアルに明記し、またその研修も増強しました。さらに、普及員だけで対処できない問題(村民の対立など)に答えるために、郡スタッフによる直接的なモニタリング活動も重視し、具体的な活動としてシステム化しています。
(エ) キャパシティーデベロップメント
PASViDにおいては、村の課題解決能力について具体的に対処されているのは、参加型計画における問題分析などの分析への参加による学びと、マイクロ・プロジェクト内でおこなわれるトレーニングが主です。
しかし、より重要なのは、実施にいたって、会計上の不正、資金不足、関係者の対立等のさまざまなリスクに対して、立ち向かっていくための能力の開発です。たとえば、製粉機が壊れたとすると、それをどのようにして修復して、運営再開までこぎつけるのか、ということを村(村民)が解決することです。しかし、計画後の側面支援がなければ、そのような能力が育ちません。
将来的に自立した村をつくるためには、このような村(村民)の課題解決能力(キャパシティー)の開発をするのが、マイクロ・プロジェクトの目的であると明確化しました。つまり、JICAの技プロのようにマイクロ・プロジェクトを経験することで、村の能力開発をするということです。モニタリングもそのためのファシリテーション活動であると位置づけています。
そのためにはより長期的な視点にたったモニタリング・ファシリテーション(訪問と指導)が必要であり、それも含めたマイクロ・プロジェクトであるということを明確化しました。
(オ) 持続的農業との統合
PASViDは学校やクリニックの建設も認めていたが、PaViDIAアプローチは、農村の生活基盤は農業にあることや同アプローチは農業省の普及手法として位置づけられることから、マイクロ・プロジェクトの内容は農業に関連したものを推奨するようにしています。また、単なる既存の農業手法を継続・拡大するだけでなく、持続的農業技術を導入し、マイクロ・プロジェクトを機会に農業の質の向上を目指しています。例えば、ヤギ飼育をする際には、改善版のヤギ小屋をつくり、ヤギの糞を肥料に混ぜ畑にまくことを推奨しています。農業技術を高める具体的な普及手法として、農民同士の学びあいの場を提供する、”Farmer Field School” (FFS)を導入し、マイクロ・プロジェクトを通じた農業技術の向上に努めています。
3) PaViDIAアプローチの最大の特徴
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PaViDIAアプローチはPASViDの基本的な考え方ややり方を踏襲しつつも、ザンビアの実情に合わせて、実用性を重視し、大胆に変更を加えていった手法です。さらに現在でも、ジェンダーや生活改善(LIPS)といった新しいテーマも取り入れながら、現地適用化を通じて、進化しつづけています。その結果、非常に現実的な村落開発手法として昇華されました。 そのような「柔軟性」と「実用性」が、PaViDIAアプローチの手法としての最大の特徴といえるでしょう。 この特徴を最大限に活かしつつ、今後もPaViDIAアプローチは進化を遂げていき、ザンビアのみならず、ザンビア以外への展開に対して、大きく飛躍していくことが期待されます。 |
さらに詳しく知りたい方は、以下のマニュアルをご参照ください。